spicks&specks

怠惰で平凡な日常

鬼怒川訪問のすゝめ 其の参

大変お待たせしました。お待たせしすぎたかもしれません。鬼怒川完結編どうぞよろしくお願いいたします。

 

魚をキャンセルし向かう先は昼飯屋。

やはり田舎だ。探せど探せどにかりよったりな蕎麦屋位しかない。蕎麦でいいか。と半ば無理やりに蕎麦を食べたい腹に切替える。龍王峡というちょっとした観光スポットの道の駅?サービスエリア?のような所へ辿り着いた。声をかけてくるキャッチのババア共。どれも似たり寄ったりなメニューでいまいち決め手にかけていた。そんな刹那、しゃがれたダミ声が聞こえる。声だけでは男か女かも分からない。そして振り返ると煙草を吸いながら私達を店へ勧誘しているババア。私は雷に打たれた。令和のこの時代に店先でタバコをふかしての接客が許されているだ。BIG3の1人登場だ。そんなイカれた田舎の蕎麦屋は絶対に美味いはず、当然その店に即決した。ババアおすすめの山菜天ざるそばを注文し、期待に胸を膨らませながら食事を待つ……………

 

結果は最悪だった。バラバラの太さの蕎麦。それ故に茹でが甘い麺。味のしない出汁。極めつけは天ぷらだ。山菜が一切見当たらない盛り合わせに、油をこれでもかと吸い込んだ衣。流石の私でも胃がもたれた。

唯一上手いと言えたのは、サービスで出してくれた山菜のたまり漬け。これだけは間違いなく都会では出会うことが出来ない美味さだった。

そんなこんなで食事を済ませ、店前でババアと共に一服。煙草の煙を介して会話が進む。飯以外の全てが丁度いい。そして、周辺のおすすめスポットを紹介してもらうと、やはり龍王峡は1度は見た方がいいとのこと。そこで私達は龍王峡へ向うこととし、戻ってきたらババアが麦茶を出してくれるという約束をした。

その約束を胸に龍王峡へと向かう。

しかし、周りは結構ガチ装備。半袖短パンサンダルは私達だけだ。しかもよく見るとハイキングコースになっており、40分ぐらいのコースだ。これは、このまま行けばヒルに噛まれ、斜面で足を滑らすことは必至である。そんな危機を感じたため、1度車へ戻る。

1時間後、再びババアの所へ趣く。そして兄貴が言う。

龍王峡良かったです。」あまりのナチュラルな嘘っぷりに私は相づちを打つほかなかった。主演男優賞ものの演技力である。約束通り?麦茶を貰った。嘘が心苦しかったのかアニキは唯一美味かった漬物を買う。そこで気分が良くなったのか、ババアが自家製の別の漬物をくれるとの事だった。それもタッパー丸ごとだ。なんだかんだそれも美味い。本当に漬物だけは1級品と言えるだろう。その後、ババアと煙を交し話す。嗚呼ここでも人情を感じることが出来た。それ故なのかいつもより煙草のタールがきつい様な感じがした。

 

 

そんなこんなで鬼怒川を満喫し、適当に時間を潰す。これがChillというものだろう。散歩したり、宿の支配人に絡まれたりしてるとあっという間に夕食の時間。栃木は蔓延防止対策発令中。店で酒を飲むことを諦めつつ適当に入った駅前の食堂。それぞれ定食を頼みそダメ元で頼んだみた。「生2つ。」と

するとどうだ、時が止まるったかのように固まるオバチャン。ん?どいうことだ?少し困惑しながら無限にも感じる沈黙を耐える。無領空処?ザ・ワールド?そんな感覚を覚えつつ沈黙を耐える。そして、オバチャンが囁く。「1杯だけね。」そうここに今、ビールの闇取引。闇ビールが生まれた瞬間である。さながら禁酒法時代のアル・カポネだ。彼女こそが最後のBIG3だ。そして、周囲の人にバレないように注文を行い、闇ビールを待つ。周囲の客に背を背け腹の方で隠し、闇ビールを運ぶ。そんなオバチャンの健気な姿はアル・カポネではなく、民衆の為に戦うジャンヌ・ダルクのようだ。観光客が鬼怒川に来て楽しんで欲しい。そんな真心から生まれた闇ビール。これは私達の人生の中でも最良な酒のひとつになったことは間違いなかった。

もしかしたら、世界の様々な争いの発端は人が人を思う故の悲しい戦いなのかもしれない。そんな風に思いながら闇ビールを味わうのであった。

 

そんなこんなで夜がやってくる。そう、宴の時間だ。

前日の失敗を反省することなく、同じ量の酒を買い込む。人はなんて愚かなのだろうと思うかもしれない。それでも、私達は昨日の自分を超えるために戦う。アスリートが命が賭けでタイムを縮めようとするように、私達は命懸けで少しでも多くの酒を飲む。そう、私達はジャンルは違えど求道者である。

だがしかし、現実の壁はそう甘くはなかった。勘のいい皆様ならお気づきだろう。全くのデジャブ。もはやタイムリープとも言えるような道を歩く。それでも、その先に限界の向う側がある。そのために日々戦うのだ。

 

そして、舞台は朝。目覚まし時計がなるように、部屋のダイヤル電話で鳴り響く。今はもう聞けないダイヤル電話の呼び鈴、なんだかいい朝になりそうだ。そんなことを感じていたが自体は私の心と真逆である。そう、チェックアウトの時間である。当然の如く、その電話で起床した私達は記憶が無い事は二の次とし、出発の準備を進める。

宿の支配人のご好意で延長時間は取らないとのこと。さすが、鬼怒川。慈愛に満ち溢れている。

それだけでなく、愚か者2人分の朝ごはんまで手土産で持たせてくれる高待遇。流石に、満面の笑みで送り出されつつ、少し申し訳なさを感じる私たちであった。

 

栃木から東京の距離が130キロ。「1時間だな。」そうアニキが呟く。流石は有言実行の男。本当に休憩1回を挟んで1.5時間かからずに東京へ着く。その乗り心地は、最早車の域を超えたものであった。

そして、また私たちは都会の波に揉まれ彷徨いながら、居酒屋を探して歩みをすすめるのであった。

 

鬼怒川。慈愛と人情に溢れたこの街は喫煙者にとっての最後の楽園てことだけではなく、来たもの全てを受け入れ癒してくれる場所でしょう。

日常のなかで、社会の渦に飲み込まれ、都会の喧騒に疲れた皆さん。是非このブログを思い出して「そうだ。鬼怒川へ行こう。」と足を運んでくれると幸甚です。

 

 

[完]